唇よ、静かに君と僕を語れ! Part1

久しぶりの登場だ。春にAV撮影の現場をレポートしてから、季節はめぐり、今はもう秋。僕は4月に某興信所に入社し、念願の探偵になった。今日は、探偵業の副産物として生まれたサイドストーリーを語ろう。事実は小説より奇なり、だ。

「妻がデリヘルで働いている」と疑う男から、その真実を探って欲しいという依頼があった。新人探偵の僕が、その調査を担当することになった。浮気調査は何度もこなしているが、妻が風俗で働いていることを確かめるという素行調査は、その時がはじめてだった。でも、調査は簡単だった。外出する彼女を尾行する。怪しい行動がなければ、それでよし。本当にデリヘル嬢であれば、彼女がホテルに入る姿をビデオで撮影し、証拠として報告書に添えて提出する。本来はそれで終了するはずだった。しかし、僕は好奇心と欲望を抑えきれなかった。
依頼人の妻の名前は、高橋綾香。どこにでもあるような名前だった。

依頼人の妻の素行調査を始めた初日。僕は、外出する女性の姿を見て驚いた。高校時代に一度だけキスしたことのある同級生の小林綾香だったからだ。綾香とのキスは僕にとってファーストキスだった。
彼女は、見る角度によっては女優の綾瀬はるかに似ていた。僕は綾香の少し憂いのある横顔が好きだった……。
彼女が所属するデリヘルを見つけるのは簡単だった。その店のホームページを見ると、「あや」という源氏名で登録されていた。顔は写っていなくても、身体のラインだけで綾香であることがわかった。僕は彼女に会いたくて、「あや」を指名した。もはや仕事の域をはみだしていた。
ホテルにやってきたのは、「あや」と名乗る綾香だった。依頼主の夫から借りた写真より、ずいぶん派手なメイクをしていた。
「ひょっとして、○△×クン(僕の本名)?」
彼女は困惑した顔で僕を見て、「……ど、どうして?」とつぶやいた。僕は「それはこっちの台詞だ。なぜ君が若妻デリヘル嬢に?」と聞いた。彼女は、答えなかった。
綾香に一歩近寄ると、彼女は唇をかみ、目をしばたき、わずかに顔をゆがめた。手をさしのべると、「いや」と抵抗した。綾香は身体じゅうから力が抜けてしまったかのように見えた。
「綾香」と名を呼び、引き寄せると、拒むように腕を抱え、頭を僕のアゴの下に押しつけた。僕は抱きしめて、そのアゴを起こし、唇を重ねた。
僕はセックスよりも、オナニーよりも、キスが好きだった。綾香の唇が、そのことを思い出させてくれた。